より良い知能を創り出すことで、人間の知能を理解したい。その知見を人間の「教育」に役立てることが夢。<小川雄太郎さんインタビュー・後編>

前編に引き続き、株式会社松尾研究所で、東京大学松尾研究室と連携しつつ、技術の社会適用を目指した様々な基礎研究を遂行するシニアリサーチャーとして働く小川雄太郎さんのインタビューの後編をお届けいたします。(前編はこちら

明石高専を卒業後、東京大学工学部精密工学科編入学、東京大学大学院 新領域創成科学研究科博士号取得。20代をアカデミアで過ごされた後、30代で民間企業に就職。AI関連の受託案件・製品開発・研究などに従事され、機械学習・ディープラーニングを独習、その後、書籍執筆や講師をされた経歴をお持ちの小川さん。これまでのご経験と、今後の夢についてお伺いします。(小川さんのインタビューは、前・後編の2回でお届けいたします。)

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自由になるために、早く自立したかった。ロボコン出場と自立を志し入学した明石高専での生活が原体験。

ー これまでのご経歴を教えてください。

中学生の頃、テレビでロボコンを観て、いつか自分も出場したいと思っていました。文系科目があまり好きではなかったこと、そして、早く自立したいという思いもあり、明石高専に進学を決めました。高専の先生方は博士号を持っている方が多く、教育の質が高く教養の土台を培ったと思っています。高専時代には、同じ寮の仲間でグループを作り、自己学習で少しずつ学びながらロボット制作に熱中、憧れていたロボコンにも参加、国技館でロボットを操縦する夢も叶いました。面白い生活でした。

生体医工学(筋電義手)に関する卒業研究に従事し、生物×工学に強い興味を持っていました。また、クラスや寮の友人・後輩に教える機会が多かったため、当時から「教育」にも興味がありました

当初、高専卒業後すぐに働くつもりだったのですが、先生方の勧めもあって東京大学工学部精密工学科への編入学を決めました。入学後、勉強、アルバイト、就活もサークル活動も全てを両立させる東大生の行動力を目の当たりにして、焦りを感じました。高専の時間の流れってすごくゆるやかなんです。このままじゃいけない、何か頑張らねばと思っていました。

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知能を理解することでより良い教育を実現したい。

大学で研究室を選択する2010年頃、脳科学ブームが到来し、ヒトの脳血流変化の可視化や、脳波を計測して意図的に物を動かすBCI(ブレイン・コンピューター・インターフェイス)などの研究が進み始めました。そのため脳・神経科学の研究が、生体医工学の研究のなかでも一番熱そうだな、そして、教育とも相性が良さそうだなと感じていました。

以前から脳科学には興味を持っていて、高専で寮生活を送っていた時も「同じ授業を受けて、同じ生活をしているのに、テストで良い点を取れる人と取れない人がいるのはなぜか。なぜ教育効率にこんなに差が出るのか」と疑問に思っていました。また、もともと、いわゆる暗記科目が嫌いだったんです。「暗記すれば良いことは、検索すればいい。それさえ煩わしいので電気刺激で完了しないものか。脳をなんらかの形で拡張して、暗記項目は外部メモリで補完できないだろうか」と思っていました。学部生の時にインターンで働いていた際も「社会人の研修の効率化を目的に、なんらかの脳刺激のみで、何日分かの研修と同じ学習効果を得ることはできないか」と考えたりしていました。

世紀を跨るにつれて学ぶことは増えているのに、教育期間は限られている。もっと効率よく勉強できるよう、教育方法を見直す必要がある。学習の効率化に、生体医工学を用いることができないものか。当時の脳科学のブームもきっかけとなり、教育と脳に関する分野への探究心から、さらに研究の道に進むことを決意。東京大学工学部神保・小谷研究室で学部、修士、博士、そしてポスドク1年を過ごし、工学の観点から神経科学の分野で博士号を取得して働きました。

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道が狭まらない方を選ぶ。それが進路を選択する際の基準。

ー その後のキャリアは、どう選択されたのですか?

ポスドクをしていた、30歳になる手前のタイミングで、アカデミック方面に進んで大学の助教や高専の教師を目指すか、それともビジネスの世界に進むのかの選択に迷いました。

高専生の学生期間の5年間って、人生の多感な時期だと思うんです。その時期の学生と関わるということは、学生の人生に対する影響力が大きい。自分の研究領域も追究でき、専門的なことも教えられ、多感な学生時代に学生に寄り添えて、人と関わる喜びもある。そんな高専の教師という職業に憧れがありました。

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一方で、博士1年生のときに既に結婚していたので、生涯家族をきちんと守っていくことを第一に考え、ビジネスのフィールドで、ITのスキルを身につければ、この先の時代、家族を食べさせていくのに困ることは少ないであろうとも考えました。また、ビジネスの世界からアカデミックへ戻る先生方にも多く出会って来たのですが、その逆の道を歩む方は多くはない印象を抱いていました。

難しい判断や大きな選択をする際には、自分なりの基準として「将来の選択肢が狭まらない方向を選ぶ」という考え方を以前から持っていましたため、その基準に従いビジネスの道を選びました。

この先の時代は自分で学んで成長していかないと落ちていく。勝手に成長したり、スキルやポジションが上がるわけではない。

入社したSIerでは、最初、先端技術の開発、研究、調査系の部署に配属されました。業務としては、複数の先端技術の中から、脳との関連も多そうで、アカデミックでの知見が活かせそうだと考え、AI系の研究・開発・調査を担当しました。その後新卒3年目頃からは自然言語処理系のAIを搭載した製品開発の開発から開発マネジメントを担当しました。

AIの分野で博士号を取得した訳ではなかったので、早くAIの分野で日本を代表できる人材となって、会社にきちんと貢献できる人材にならねば…と必死でした。

そのため業務時間外に機械学習・ディープラーニングの勉強をしてはその内容を自分の備忘録がてら、ブログでアウトプットしていました。すると、書籍執筆の話や、講師の依頼が届くようになり、こうした会社外でのAIコミュニティとのつながりから、松尾研究所の技術顧問である松尾先生が理事長を務める、日本ディープラーニング協会の委員に加わることになりました。その時のご縁もあり、松尾研究所に入社することになりました。

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学生の時から現在に至るまで、私が「知能」に興味を持っているのは、「教育」という言葉がカギだと感じています。松尾研究所でより良い知能を創り出すことを通して人間の知能を理解し、それを人間の「教育」に役立てていきたいと思っています。

松尾研究所では「ディープラーニング × 脳・神経科学」の分野に限らず、強化学習や世界モデル、自然言語処理や画像処理などについても、アカデミック分野で「知の探究」を担う東大松尾研究室と並走し、「知の社会実装」を担う基礎研究から開発を担当する企業での研究者・開発者を募集しています。 興味がある方はぜひカジュアル面談 にお申し込みいただけると嬉しいです。


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(プロフィール)

2002年:明石高専 電気情報工学科入学
2007年:東京大学工学部 精密工学科編入学
2016年:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士号取得 「脳機能計測と神経細胞集団の数理モデル」の研究
2016年-17年:東京大学 先端科学技術研究センター 特任研究員
2017年-22年: 株式会社電通国際情報サービスに入社AI関連の受託案件・製品開発・研究などに従事
2022年より現職
松尾研究所でより良い知能を創り出すことで、逆に人間の知能を理解し、それを人間の「教育」に役立てていくことを目指している。

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(研究内容・著書:小川雄太郎)

・アジャイルとスクラムによる開発手法 ~Azure DevOpsによるプロフェショナルスクラムの実践(22年6月)[link]
・つくりながら学ぶ! PyTorch による発展ディープラーニング(19年7月)[link]

その他、著書、論文、学会発表はこちらから [link]

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