今回ご紹介するのは、株式会社松尾研究所で、入社3年目にして取締役を務めながら新規事業の立ち上げにも挑戦されている金 剛洙さん。1年目はデータサイエンティスト兼PMとしてプロジェクトをリードし、2年目は人材育成と組織づくり、3年目からは経営に参画しつつ新規事業開発をリードするなど、様々な0→1経験を積み重ねてこられました。本記事では金さんの松尾研ジョインの背景やこれまでのご経験、今後の展望についてお聞きします。
ー 松尾研究所にジョインするまでの経緯を教えてください。
小学生の時から「なぜ、働いていないのにお金が増えるんだろう」と金利の概念を不思議に思ったり、金融周りの領域に興味を持っていたので、大学・大学院では計量経済学を学びました。為替や株の分析をするために、機械学習を学んだのがこの頃です。
そして卒業後は外資系金融機関に就職し、金利デリバティブのトレーディング業務に従事しました。マーケットメイキング業務に活かせないかと、独自に深層学習による予測モデルの作成なども行なっていました。金融工学、機械学習、制御工学など、様々なタイプの数学を武器として使って利益に変えていくのが面白かったです。
ー 次のキャリアを考え始めた理由はなんですか?
前職を離れることを考えたのは、端的に言うと金融系の業務特性が理由です。
この業界では「一人前になるには長い年月がかかるが、その業務の8割は2〜3年で習得できる」と言われることもあります。勿論一つの物事を極めることも素晴らしいですが、自分の時間軸ではそこに残りの仕事人生全てを掛けることはできないと考え、次のステップでの挑戦をしたいと感じました。
また、ビジネスが自社の知名度と人脈、B/Sで成り立っていることに気づき、自分の力で何ができるのか試してみたくなったことや、自身の深層学習の力量に力不足を感じ、知見を深めなければと刺激されたことも理由として挙げられます。
ー 松尾研究所にジョインすることになったのは何故ですか?
実は、前職を辞める時に起業しようと考え、友人と起業を検討していたのですがなかなか上手く行きませんでした。
同時期に、東大松尾研究室が開催しているDL Hacksというディープラーニングの勉強会に参加させていただくことになりました。
それがきっかけで、松尾研で当時大手金融機関と進めていた共同研究プロジェクトの存在を知り、関わらせていただくことになったんです。
ー 金さん自身も松尾研究室と同じ学部・研究科出身ですよね。
はい。そしてさらに言うと、在学中に授業の一環で、松尾先生にインタビューさせていただいたこともあります。その時に先生から伺って印象に残ったのが「日本では(他の人よりも)2倍優秀な人でも、2倍(速く)出世することはできない」という言葉でした。
自分は就職先が外資系企業だったので、その論理は適用されないかなと思っていましたが、実はリーマンショック以降に構築されたピラミット構造の影響もあり、出世や昇進のスピードも概ね一律になっていました。必ずしも努力が出世に跳ね返ってくるわけではない仕組みになっていることに気付き、当時の先生の言葉を思い出したんです。
また、松尾先生が当時仰っていたこととして「起業するにあたっては、会社の看板を使って社内でベンチャーを始めるのも一つの手」などと世間一般の「起業」とは異なる考え方を10年程前に提言していて、先端的な考え方を持っている方なんだなという印象を持っていました。
1年目はチームを率いてプロジェクトをリード
ー 松尾研究所に入社して1年目はどんなことをしていたんですか?
AI事業部で、データサイエンティスト兼プロジェクトマネージャー(PM)として働いていました。他のデータサイエンティストやエンジニアと一緒に実際に手を動かしつつプロジェクトをリードする役割なので、機械学習系のスキルをベースに、更に様々な技術をキャッチアップさせていただきましたね。
さらに半年ぐらい経ってからは、案件の提案や立ち上げを行うAIコンサルタントの業務範囲にも挑戦させてもらいました。AIスタートアップ創業者が立ち上げ期に必要とする経営以外の活動一通りのことはやらせてもらったと思います。入社前は「金融系のプロジェクト100%でやるのかな」と思っていたんですが、色々できたことは結果的に良かったです。
ー 松尾研究所の「データサイエンティスト/PM」職はどんな仕事をするんでしょうか?
松尾研究所で扱うプロジェクトは、数年先の経営インパクトの創出を見据えたものが多く、それらを半年から一年のマイルストーンで管理しています。
データサイエンティストは、AIコンサルタントと協働しながら、技術的な知見とデータ分析結果を基にクライアントの課題を整理・見直しし、論文調査を行い、モデルを実装し、そのモデルの精度を上げ、パイプラインを整備し、実運用に繋げる、といった、一連の流れを担当します。解決すべきクライアントの課題の粒度は様々ですが、大企業の社長を含む役員陣からの依頼が多いのも特徴となっています。
「難易度は高いが社会的に価値の大きい」課題に向き合える、松尾研らしさ。
ー どんなところに仕事の面白さがありますか?
様々な技術をキャッチアップして実装できるところでしょうか。私自身技術に触れることが好きなので、そういった環境は大変有り難いです。私の場合はその技術というものが必ずしも「最先端」ではなくても良くて、昔ながらの手法であってもクライアントの課題解決に上手く応用できるのであれば良いと考えています。
一方で、基礎研究との精神的な距離の近さも魅力です。つい最近も、昨年の論文を応用してできなかったことが、今年の論文を応用して一気に精度が上がった、ということがありました。メンバーもリサーチ力が高く、実装スピードも速いので、知の境界線のぎりぎりまで攻めたものも実装することができます。
また、松尾研究所という組織の特徴ですが、公に資する強い自覚を持った組織だからこそ、自社の利益最大化ではなく、「難易度は高いが、解決すれば社会的に価値の大きい」タスクに挑戦できるのも大きなやりがいです。その分、探索的な時間をしっかりとれている実感があります。
人材育成と組織づくりに取り組んだ2年目。
ー 松尾研究所に入社して、2年目はどんなことをしていたんですか?
2年目からリーダーポジションに昇格し、メンバー育成の仕組みづくりに取り組みました。1つ目はエンジニアメンバーの等級制度と評価・育成スキームの確立、2つ目は今後のプロジェクト化を見据えた、金融×機械学習人材の育成です。
松尾研究所のエンジニアメンバーは、社内の等級制度をさらに分解し、3段階のグレードに細分化されます。しかし当初は、各グレードで能力定義が曖昧だったんですね。そこで、論文のサーベイやコーディング、チーム開発など項目を設けて、各グレードでどのような力が求められるか、そのためどのような経験が必要かの言語化を進めました。そのおかげで、組織としてのメンバーの育成目標ができたり、マネージャーの目線合わせができるようになりました。
ー メンバーの育成には元々関心があったんですか?
学生時代に教育機関でアルバイトやインターンをしていたので、人が育つ、ということには興味はありました。さらに、入社時から起業には関心があったので、(松尾研発スタートアップELYZA創業者の)曽根岡さんに「将来自分で事業を起こすのであれば、人材育成の経験は絶対に必要。この経験は将来的にも役に立つのではないか。」と言われたんですね。今思えばその通りだな、と。
ー 金融×機械学習人材の育成は、なぜ・どのようなことに取り組んだんですか?
(これは今取り組んでいる新規事業の話にも繋がっていますが)当時から金融系の新しい事業を立ち上げたいという構想があって、そのためのチームビルディングとメンバー育成を目的に勉強会を企画しました。金融領域は機械学習を応用するのに手間がかかる分野なので、専門書を使って輪読会を開催するなどしました。実はこの会はかなり好評で、今年講義コンテンツにまとめて公開したりもしています。
3年目で取締役に就任。経営に携わりつつ、新規事業立ち上げに挑戦中。
ー そして今年 入社3年目。松尾研究所 取締役にも就任されましたね。
松尾研究所は株式会社なので利益も追求しますが、個社利益の最大化・最適化だけを優先したりはしない組織です。東京大学松尾研究室とビジョンを共有する組織としてレバレッジの範囲が大変広いですし、それはどんどん拡大しています。組織のできる範囲が大きくなることに比例して、自分の選択肢も広がっていくことを魅力に感じています。
ー 新規事業の立ち上げもされていると聞きました。何をしているんですか?
まだ内緒なので、「金融系のプロジェクト」とだけお伝えしておきます(笑)自分の関心やキャリアに基づき、金融企業向けにトレーディングに関わるプロダクト・サービスを提供できれば良いと思っていて、今構想中です。
ー 金融プロジェクトの面白さはどんなところにあるんでしょうか?
インパクトが全然違うと思っています。仮に自分がベンチャー企業を創業したとしても、日本のGDPの1%も動かせないと思うんです。でも、金融というのは、うまくいくと数千億円、あるいは数兆円規模でインパクトが出せる、スケールの大きさがあります。
日本ではまだ金融領域で世界的に成功を収めている企業というのが出てきていません。そこに挑んでいくような事業にしていきたいです。
また、コンサルティングも受託開発も、BtoBでやる以上は、ある業界の成長に応じてその一定割合をいただくビジネスです。すると、業界の成長が事業のキャップになる。金融領域はそのキャップがないので、挑戦に終わりのない面白さがあります。
実は、松尾研にジョインした当初は年齢が20代後半だったので、選択肢を狭めなくて良いと思い、金融に拘らず幅広く色々な業界を見ていたんです。そうして広く見渡してみた結果、やはり金融が面白いと再認識できましたね。
ー 今後のキャリアはどう考えていますか?事業が立ち上がったら、社内起業家として会社にすることも視野に入りますか?
今の仕事が面白いので、入社時ほど特に起業に拘っているわけではありませんが、社内起業の形が必要になるなら、挑戦したいと思います。
個人的には、現在はディープラーニングの社会実装が非常に面白い時期だと思っていますが、より長期的な目線では、アカデミアに伴走する企業として、大学や研究機関のAI以外のさまざまな技術ドリブンのシーズを掘り起こし、先端技術を社会実装する場面を応援する立場を担っていくというキャリアパスも面白いと感じています。
まだ勝負するフィールドを決められていない人も、”起業が遠くない感覚”を得ることができる
ー 松尾研究所に入社するメリットはなんでしょうか?
社会人・学生問わず優秀なメンバーから得られる刺激です。意識が高く、基礎能力が高くて目的を持って自走する力がある方が多い印象があります。
松尾研に入ると同年代の優秀な人がいるので、それと比較して何が足りていないかが明るみに出るため、嫉妬しつつもがむしゃらに頑張り、切磋琢磨できる環境があります。
個人的には、元々起業をしたいと思っていたので、「起業が遠くない感覚」を持てたことも大きいと感じています。これは、年齢問わず周りの人がどんどん起業している特殊な環境から来ていると思います。
起業している人って、良い意味で変わり者でとんでもない熱意を持っている人達ですが、彼ら彼女らに刺激されて「自分にもできるんじゃないか」と思えたのは大きな経験でした。
また、様々なクライアントの課題に向き合うという性質上、起業のタネを見つけやすいというのも面白い点です。松尾研発のスタートアップが増えているのもそういった理由があると思います。起業に興味があるけど、まだ勝負するフィールドを決めていないという人にとっても魅力的な環境かと思います。
ー最後に、松尾研に興味のあるみなさまへのメッセージをお願いします。
松尾研で働くには、やはり、知的好奇心が旺盛なことが大事だと思っています。
そして、抽象的な事象をどう落とし込んでいくかが非常に重要なので、柔軟にその過程を楽しめる人、ただ考えるだけではなく、新しく思いついたアイデアを実行に移すことが好きな人にもおすすめの環境です。そんなメンバーと、松尾研のビジョンの実現に向けて共に歩んでいけると嬉しいです。
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(プロフィール)
2017年東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻を修了。
同年シティグループ証券株式会社に入社し、日本国債・金利デリバティブのトレーディング業務に従事。
2020年より、株式会社松尾研究所に参画。機械学習プロジェクトの企画からPoC、開発を一貫して担当。その後、社長室チーフデータサイエンティストを経て、2022年より取締役就任。
他、東京大学松尾研究室ボードメンバー、株式会社MK Capital代表取締役、PLUGA AI Asset Management株式会社執行役員
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